今日、グラミー賞の発表の日であったけど、そのグラミーが始まる前、一つの訃報が音楽業界を走り抜けた。アル・ジャロウの死。アル・ジャロウも7度のグラミー・ウィナーだった。
https://twitter.com/AlJarreau/status/830854743459258369
(追記:↑ これはアルの公式Twitterからの彼の死を伝えるTweetだったけど、今はアルのTwitterは閉鎖されて表示されなくなってしまった。それでもファンとして何となくこれを消せずにいる事をお許し下さい)
アル・ジャロウについては、多分、自分と同世代の人は名前も殆ど知らない可能性があるし、日本では、かなりジャズやフュージョンに詳しくないと、バブルの頃のAORのオシャレな曲をやってる人...と言うイメージしかない可能性もある。
しかし、すごいミュージシャンを集めてアルバム作り続けて来たアーティストで、自分は殆どの彼のアルバムを所有してるけど、アル・ジャロウの訃報を伝える海外のTweetの殆どが「レジェンド」と書いている。
最初に曲を出してしまうけど...これから書く事で、アル・ジャロウが難しい曲やってるオジサンと言うイメージを作りたくなくて、”本当にカッコいい曲をやっていたオジサン”であった事を印象づけておきたいw
これは92年、ナラダ・マイケル・ウォールデンのプロデュースの”Heaven And Earth”の1曲目。このヴォーカルを聞いてもらってわかるように、アル・ジャロウは黒人のヴォーカリストではあるけど、声を張り上げたり、こぶしをぶんぶん振り回して歌う今時のソウル・シンガーとは明らかに違う。
彼の声の最大の特徴はリズムやスキャットであり、ボイス・パーカッションも得意にしていたり、こういうジャロウの声は唯一無二であるように思う。
目次
ジェイ・グレイドンと初めて組んだ”This Time”
自分がアル・ジャロウを知るきっかけになったのは、兄貴がドラムを習っていた師匠(この人はジョー・サンプルとも友人だった)がくれた一枚のアルバムに起因する。
兄貴と自分が、デビッド・フォスターとジェイ・グレイドンと言う音楽界の”宝の音”を発掘しまくっていた頃(自分は12~13歳頃だったし、発掘していた音は主にエアプレイとかロックやポップ系だった)、その兄貴の師匠がそこに一枚のアルバムを放り投げて来た。
「これもジェイ・グレイドンのプロデュースアルバムだし、デビッド・フォスターも入ってるから聞いてみな」
特に兄貴には「ガッドがドラムを叩いている曲があるから、特に”スペイン”はよく聞いてみるべき」
このスペイン...チック・コリアがリターン・トゥ・フォーエバーでやっていた曲だけど、日本のWikipediaにもこのコリアの楽曲単体の説明があるほど、ジャズ界に革新的なものをもたらした名曲。
このWikipediaには、ジャロウ版については言及は無いけど、海外ではアル・ジャロウのカヴァーも超有名で、特にそこでのスティーブ・ガッドとの名演は、Youtubeにおいても最初に出て来るほど。
https://youtu.be/m7W9wLXJNRk
これが日本でのライブだけど(ライブ・アンダー・ザ・スカイだーw)、動画主さんが書いてくれてる事では、ガッドの他にジョー・サンプルがピアノ、ベースにフレディ・ワシントン、ギターにバズ・フェイトンの名前もある。昨年、TOTOと来日したパーカッショニストのレニー・カストロの名前もあるけど、しかし、この曲、改めて聞いてみて、このメロディを音を外さずに歌うのは、マジでムズそうw
自分の場合は、ピアノの方だから、アルバムのThis Timeの一曲目の Never Givin' Upにすごい衝撃を受ける事になった。
印象的なピアノ・イントロからラテンっぽいピアノ(多分、音からしてヤマハのCPだと思うけど)に繋がる事になるけど、このピアノはグレッグ・マシソン(Greg Mathieson)でラリー・カールトンの超名曲であるルーム335のキーボードのイントロも弾いてる人。
この”Never Givin' Up”のラテンピアノっぽいフレーズとノリは、個人的な話だけど、自分のピアノに後々まで影響を与え続ける事になって、13歳頃の自分にメガトンなカルチャーショックを与えてくれた。
このアルバムの前、既に77年、78年にベスト・ジャズ・ヴォーカル・パフォーマンス賞を獲得していたジャロウだけど、この”Never Givin' Up”は81年の最優秀R&Bボーカルパフォーマンス(男)にノミネートされ、賞獲得までに至らなかったけど、ジャロウがR&B界でも注目されるようになった一曲にもなった。
このThis Timeと言うアルバムは、今はワーナーがベストフュージョンコレクションで安く出してくれていて、安く簡単に手に入るようになったけど、87年に一度CDが出されて以来、2012年までCDの再販がされず、自分も4~5年前にやっとCDを手に入れる事が出来た。とにかく長い時間、デジタル版が入らず、一部でプレミアが付くまでになって入手が難しい一枚だった。
プロデュースもジェイ・グレイドンと言う事で(既にグレイドンはマンハッタン・トランスファーをヒットチャートに送り出していた)、ジャロウを語る時に絶対に外せない一枚にも思っている。
アル・ジャロウの最大ヒットアルバム"Breakin Away"
そして、次にジャロウが再びジェイ・グレイドンと組んで出した81年の「Breakin Away」は、更にアル・ジャロウの名声を高める事になった。
このアルバムは、アメリカの総合チャート9位、R&B、ジャズチャートで共に1位を獲得する。
このアルバムが出された81年頃のヒットチャートを考えると、既にマイケル・ジャクソンとかがヒット曲を連発しだした頃で、その時代の名盤を数えるとキリないが時代でもあって、R&Bとジャズのチャートで共に1位を獲得するのがどれだけすごい事だったのか、それを思わずにはいられない。
このアルバムでも一曲を除いて全てスティーブ・ガッドがドラムを叩いて(残りの一曲はジェフ・ポーカロ)、このBreakin Awayの一曲目もガッドの軽快なリズムが素晴らしくて、同時にアル・ジャロウのサビのボーカルに絡んでくるサックスはトム・スコット。このトム・スコットのサックスが個人的にマジで好き。
そして、この曲はアル・ジャロウの最大のヒット曲となった”We're In This Love Together”。それでもビルボード15位で、これがかなり意外な感じ。この公式PV見てると勘違いしそうだけど、ここでカットギターを弾いてるのがTOTOのスティーブ・ルカサーだった。
アル・ジャロウの訃報が来て、最初にルカサーがTweetをしていた...
https://twitter.com/stevelukather/status/830835073037393920
「彼と仕事が出来て光栄だった。彼のような人は一人として居なかった。驚くべき人。(ルカサー)」
当時のルカサーと言うのは、TOTOの活動よりも有名ミュージシャンのレコーディングの仕事の方が有名だった。同時代のE.W&Fや、マイケルのスリラー、クインシー・ジョーンズのアルバムのクレジットにもいつも彼の名前があるし、超絶売れっ子のスタジオ・ミュージシャンでもあった。
そういう一流のミュージシャンと共に作りあげたこのアルバムは、グラミーにおいても82年のAlbum of the Yearにもノミネート。
実際、賞はジョン・レノンの"ダブル・ファンタジー"が獲得しだけど、ジョンがファンの銃弾に倒れて亡くなった事を思えば、その悲劇性からこの年はそれに勝てるアルバムは無いようにさえ想像がつく。しかし、この年のAlbum of the Yearにノミネートされていたアルバムは、スティーリー・ダンのガウチョとか、クインシーのThe Dude(愛のコリーダ)とか、アル・ジャロウのこのアルバムを含めて、ミュージシャン主体のレジェンドなアルバムが多かった。
そして、アル・ジャロウ自身は、Breaking awayで最優秀ポップボーカルパフォーマンス賞と、Blue Rondo A La Turk(デイブ・ブルーベックのスタンダード)でBest Jazz Vocal Performance賞を獲得する事になった。それだけに、このアルバムもジャロウを語るのに外せないと思う。
名曲「モーニン」を含む”Jarreau”
次のアルバムでも引き続きジェイ・グレイドンがプロデュースを担当するけど、アル・ジャロウ自身の名前を付けたアルバム”Jarreau”。
今までのジャズやフュージョン色が強いアルバムに比べると、作曲陣にデビッド・フォスターの名前があったり、ややポップ路線が強く押し出された作品で、だからか人によってはかなり聞きやすいアルバムになっている。
そして、先に触れたデビッド・フォスターが作曲に入ってるアルバムの先頭を飾るのがアル・ジャロウの多分一番知られているだろう名曲「Mornin'」
このアルバムのドラムは、スティーブ・ガッドからジェフ・ポーカロ(TOTO)にメインが移っていて、このMornin'でもジェフ独特のハーフ・タイム・シャッフルを聞き取る事が出来る。
作曲においてのデビッド・フォスターとジェイ・グレイドンのタッグでは、E.W.&Fの”アフター・ザ・ラブ・ハズ・ゴーン”もあるけど(シカゴに居たビル・チャンプリンも作曲に参加)、このMornin'も、デビッド・フォスターが自身の作曲のお気に入り作品集”A touch of David Foste”の中にも取り上げている。
フォスターはそのアルバムの中で以下のように語っている。
「日本だけでリリースされた僕のファースト・アルバムの為にジェイ・グレイドンと一緒に書いた曲で、アルが後から自分のアルバムの為に歌詞を付けたんだ。ジェイと仕事をするのは、いつも本当に楽しいしね。アルは僕のフェイバリット・シンガーなんだ (デビッド・フォスター)」
自分所有のフォスターのアルバムのライナーノーツから書き出してみたけど、これはアル・ジャロウの為に書き下ろされた曲ではなかったわけで、しかし、アル・ジャロウの歌がフォスターの名前を更に有名にしたようにも思う。
また、今までのアル・ジャロウ作品からの変化は、ジェリー・ヘイ(80年代最も忙しかった人とも言われるホーン&アレンジの達人)のホーン・アレンジがどの曲も全開で、this timeからジェリー・ヘイはずっとアル・ジャロウと仕事をしてるけど、なんだか豪華さが半端じゃなくなっている。
https://youtu.be/BHzR-ESLgok
このアルバムはグラミーの賞獲得までは至らなかったけど、Producer of the Year、Best Engineered Recordingにジェイ・グレイドンがノミネートされたり、Mornin’(デビッド・フォスター、ジェイ・グレイドン、ジェレミー・ラボック)、Step by Step(トム・カニング、ジェイ・グレイドン、ジェリー・ヘイ)がアレンジ賞にノミネートされたり、ジャロウ自身より、プロデューサー、エンジニア、アレンジャーが注目されたアルバムにもなった。
これがグラミーのアレンジ賞にもノミネートされたStep by Stepだけど、この作曲やアレンジに加わっているトム・カニングは、ここまでのアル・ジャロウの作品には無くてはならない人だった。バークリー音楽院まで出ていて、多くのアル・ジャロウのアルバムでキーボードと作曲を手がけて来た。カニングの公式サイトにも「大きな転機は、74年にまだ無名だったアル・ジャロウに出会った事だった」とさえ書いてある。
トム・カニングはこれまで7枚のアル・ジャロウのアルバム制作に大きく貢献して来て、しかし、この”Jarreau”のアルバムを最後に、アル・ジャロウの作品のクレジットから彼の名前がなくなる...
妙にエレクトロ路線な ”High Crime”
84年に発表された”High Crime”もジェイ・グレイドンのプロデュース作品。
しかし、この前作からシンセ等の音がやや目立って来てはいたものの、この作品では更にシンセ多用なエレクトロな音が目立って来る。
特に一曲目のRaging watersは、E.W.&Fの「エレクトリック・ユニバース」に似た方向転換にも感じさせる。かなりロック色も強くて、グレイドンの全開ギターが聞ける興味深い曲にも思えるけど...
正直、ジェイ・グレイドンとアル・ジャロウの組み合わせで、こういう方向に行くか?と言う意外性を感じる曲作りにも思えるけど、しかし、この時代、エレクトロな路線に行ったのは、アル・ジャロウだけじゃない。当時は、こういう音が新しい音だったんだろうけど、たった4年前のThis Timeから比べると驚くべき変化で、それもアル・ジャロウとジェイ・グレイドンと言う同じ組み合わせで...
先に触れた通り、このアルバムからアル・ジャロウの曲作りの重要ブレインだったジャズ色が強かったトム・カニングが抜けていて、その影響が良い方向にも悪い方向にも出ているようにも思う。
このマーフィー・ロウは、アル・ジャロウのボーカルの小気味良さを良く出してる好きな作品だけど、アレンジはかつてジャロウな感じじゃないw
ナイル・ロジャースをプロデューサーに迎えた”L Is For Lover”
そして、ここでなぜかナイル・ロジャースがプロデューサーとして登場する。86年の”L Is For Lover”。
ナイル・ロジャースは、この頃既にデビッド・ボウイの"Let's Dance"やマドンナの"Like a virgin"を手がけて新しい音にも積極的に取り組んでいたけど、ジャロウとのアルバムを聞く限り、こういう書き方は申し訳ないけど、ジャロウの行き過ぎそうになった音楽を少し方向修正してくれて、元に戻してくれた感じにも思えるw
去年から洋楽訃報続きで、それについてのナイルのTweetもどんだけ紹介して来たかわからないけど、当然のようにジャロウの死にもナイルは哀悼の言葉を向けていた。
I just heard on @TMZ who are usually spot on that the great @AlJarreau has passed away #RIPAlJarreau You are a giant https://t.co/NpVyL6OBbo
— Nile Rodgers (@nilerodgers) February 12, 2017
#RIPaljarreau We had so much fun making this. My sincerest condolences to your family. You are so the real deal. Love always, Nile https://t.co/lvEUlR7l2J
— Nile Rodgers (@nilerodgers) February 12, 2017
ナイル先生も、お見送りばかりで大変だけど、皆の分も長く頑張って頂きたい。
アルバムの話に戻るけど、しかし、このアルバムでもアル・ジャロウは完全にジェイ・グレイドンと手を切ったわけではなくて、アルバムの一曲目はグレイドンと12歳の時からスタジオミュージシャン(キーボード)として活躍して来たトム・キーンとの作品。
あと、このアルバムで特に好きなのが、故ハイラム・ブロックとナイル・ロジャースのファンク・ギターがリズムを盛り上げてくれるPleasureと言う曲で、ジャロウのヴォーカルの美しさが際立ってる。
この曲の作曲にもグレイドンが加わってるけど、This TimeやBreakin awayの頃を彷彿させるアル・ジャロウの作品で、昔のファンからは人気のある曲。
この”L Is For Lover”のアルバムも、ジャロウ・ファンは外してはいけないような気がする。実際、アル・ジャロウの訃報が流れた途端、アマゾンでは1~2ヶ月待ちの状態になった人気作品。
まだまだジャロウの作品は続くけど...一回じゃ紹介しきれない...
この後もマルチ・プロデューサーの形で、故ジョージ・デュークとジェイ・グレイドンが半々にプロデュースをしたHeart’s of Horizon, 最初に紹介したナラダ・マイケル・ウォールデンがプロデュースしたHeaven on Earthに続いて行くけど、それはまた時間がある時に書き足しておくつもり...(あんまり長い記事になって疲れた...)
ジョー・サンプルのアルバムで歌うジャロウ
最後に紹介しておきたいのがこの曲。既に2年前に亡くなったジョー・サンプルのアルバム”Spellbound”にアル・ジャロウがゲストで参加した曲。このジョー・サンプルのアルバムは、ジャロウの他にマイケル・フランクスやTake 6も参加してるけど、89年の個人的に超お気に入りのアルバム。
先に紹介したスペインのライブでもジョー・サンプルがピアノで参加していたけど、このYouTubeのコメントにも、二人の偉大なアーティストが既に居ない...とか信じられないとか書いてあった。
本当にその通りで...
ジェイ・グレイドンからの哀悼のメッセージ
そして、アル・ジャロウの作品とは切っても切れなかったジェイ・グレイドンのFace Bookの哀悼の言葉を最後に訳しておきます。
言うまでもなく、アル・ジャロウが亡くなった事について、メールやFacebookでの投稿を本当に沢山受け取る事になった。これらのメッセージをくれた事に感謝すると共に心から哀悼の意を表します。
アルは、全ての人に惜しまれるだろう。良い人であり、言うまでもなく最高の才能のシンガーだった。自分がプロデュースしたり作曲したアルとの5枚のアルバムは、自分の最高の仕事だった。
1年も前に、未完成の仕事についてだとか、彼のライブやギグについてアイデアがあったり、アルとまた一緒にやろうと話していた。何とかミーティングの為のスケジュールに調整を付けたかったけど、残念な事に時間がとれなかった。それは自分のto-doリストにあって、今週、彼に電話をするつもりだった。電話で話している間、幾つかの話で笑ったり、会話は非常に楽しかった。
ここ何年か自叙伝の仕事にずっと取り組んで来て、そこにはレコーディングでのセッション等の沢山の話が詰め込まれる事になるだろう。もしこの点において良いニュースがあるとしたら、(彼の)沢山のレコーディングされた未リリースの歌がある事だ。この音楽を聞くべきだし、自分はそれを纏める為の情報を唯一知ってる人間の筈で、全ての人にそれを聞いて貰うためにワーナーブラザースとRhinoに連絡する。
最後に、アルは素晴らしい人生を送り、そしてレコードやコンサートを通して本当に沢山の人々を幸せにして来た。安らかに眠って下さい。
ジェイ・グレイドン
(訳: 管理人 Makoto)
ジェイ・グレイドンのレコーディングの厳しさは有名で、音作りに全く妥協を許さない人...と評する人も多いし、満足なトラックが録れるまで何テイクでも録音をしなおす...とも聞いた事があった。
だから、彼はなまじっかな実力のアーティストとの仕事には我慢出来ないのかもしれないけど...実際、アル・ジャロウやマントラ、ジョージ・ベンソンとか一流の実力持った人としか仕事をしてないしw
そういう人がアル・ジャロウと5枚ものアルバムを作った事を考えると、アル・ジャロウがどれだけ完璧に仕事をこなす人なのかを知る思いがするし、個人的にはグレイドンの言葉が聞けて良かった。
自分にとってもアル・ジャロウは色々な影響を受けて来たアーティストで、彼がもう居ない...とか考えるのも辛いけど、同時に彼の音楽に出会えて本当に良かった...と言う感謝の思いも強い。
心からご冥福をお祈りします。
ワーナー・ブラザース公式ページ Al Jarreau
Discogs Al Jarreau