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「哀しみのベラドンナ」70年代のサイケ色漂う(しかし中世が舞台)のエロ&悲しい「虫プロ」のアニメを見て思う事(ネタバレ少しあり)

正月早々、料理作りながら自分の知らない文化の探索を続けておりますが。

午前中は70年代の時代劇「大江戸捜査網」のテーマソングがすげぇから聞いてみろ…とか言う司令が来て、今聞いても「カッコ良すぎるだろ」とか軽くカルチャーショックを受けたけど、音楽のあんまり専門的な話しをしていると(オケがすごいとか、ホルンが主旋律やっているとか)わかる人以外面白くないだろうから、午後に見た昔のアニメの話し。

=== 警告: この先は成人用記事と言うか18歳以上の人だけが見て下さい ===

虫プロが大人向けアニメとして製作した「アニメラマ」

手塚治虫氏の虫プロで作られた「大人向けアニメ」…。大人用と言う位だからエロいけども、自分は結構前に最初の2作を見ていて、考えてみれば日本の70年前後にこういうアニメがあった事が驚きに思ったりもする。日本の70年代がどんな感じだったのか、自分は音楽や映画の世界を通してしか知らないけども、今よりは少なからず性に関してはオープンではなかったはず。

手塚治虫氏のテレビマンガの「ふしぎなメルモ」が子供の目から見ると結構"際どかった"とか聞いた事があるけど、今、リニューアル版の公式動画をYoutubeでも見る事が出来る。

この動画にキャンディー食べすぎて受精卵?にまで若返ってしまう場面があるけどw 「あれなーに?」と子供に聞かれた時、親御さんはどう答えるのか?(苦笑) 自分には子供が居ないから想像でしかわからないけど…いや、正直に赤ちゃんは最初こういう状態なんだよ…と教えればいいんだろうけど。なかなかスゴイ。

このメルモのオリジナル版がテレビで放送が始まったのが71年と言う事だから、虫プロの大人用アニメは最初の作品はその2年前に作れらた事になる。

そしていきなりエロい画像を出してしまうけど…w

この「千夜一夜物語」が大人向けアニメ「アニメラマ」の第一作目で、個人的にはこれが結構好きで、絵とかは古いけど色々とロマンを感じる作品だったりする。ウケたのはこの主人公のアルディンの顔はフランスの名優のジャン・ポール・ベルモンドをモデルにしているそうで、確かに…w そして声優は主人公を青島幸男氏が務めていたそうで、個人的には何かこのアルディンと言う主人公は、女好きでずば抜けた運を持っていたり、おチャラけていていたり、ルパン三世さえ彷彿させる。


 

そして、アニメラマ2作目の「クレオパトラ」は少し変わった視点から描かれていて、最初に宇宙船が出て来たり、そこから古代エジプトに派遣された乗組員の視点で物語が進んで行く。

また最初クレオパトラはプトレマイオスの血を引くものの、顔は美人とは言えないもので、肉体の大改造でシーザーを虜にする為に変身すると言う過程が面白い。その後は、自分達が知っている通りにクレオパトラの物語が少しエロい演出で進んで行くんだけど、シーザーの声優がハナ肇氏、アントニウスがなべおさみ氏と言うのも今にない世界感を感じてしまった。

しかし、このクレオパトラで一番笑ったのは、後に初代ローマ皇帝になるオクタヴィアヌスがゲイだったからクレオパトラの魅力に屈しなかったと言う設定で、今の時代ではそういう設定があっても全然おかしくは無いんだけど、これは1970年の日本の映画!w 先進的と言うか、70年代の洋楽界でさえエルトン・ジョンやフレディ・マーキューリーも自分がゲイである事に戸惑いを感じ、なかなかカミングアウトができなかった時代。

そしてこのクレオパトラは、色々なアニメからの友情出演がかなり散りばめられていている事が興味深い。下の写真はバカボンやニャロメとかの赤塚不二夫氏のアニメから。

しかし、こちらの友情出演のアニメの殆どは子供向けの筈で、エロいアニメに子供向けアニメからカメオ出演があるとか、不思議な組み合わせだよね…w こういうお遊びの要素も楽しめる作品だったりする。


 

「哀しみのベラドンナ」…アニメラマ3作目はかなり異色

アニメラマの2作目までは、明らかに絵的にも虫プロがやっている事を誰もが感じる事が出来るだろうし、悲しい場面があったとしても「娯楽映画」としての枠を出ないものだった。

しかし、この3作目はエロはそのままなもののかなり毛色が違う。このアニメラマの3作目は自分は今回初めて見たけども、正直に色々な理由でかなりカルチャーショックを覚えた。

まず絵が全然違うし、後から知ったけど、この「悲しみのベラドンナ」は虫プロの製作ではあるんだけど、手塚治虫氏は別の会社を立ち上げて既に関わってなかったと言う。実際、先に紹介した手塚治虫氏の公式サイトにもこの作品の紹介は無い。

それに前作の2つの作品は娯楽作品として笑える要素もあったけど、この3作目は悲劇的なストーリーで非常にシビアに進んで行く。
 

少しネタバレなストーリー

少しネタバレになるから、知りたくない人はここは読まないで下さい。

このベラドンナは、先に紹介した動画にもあったようにジュール・ミシュレ(1798~1874年)の「魔女」がベースになっている。

だから、欧州に魔女狩りが横行した中世の時代が舞台だし、このストーリーは、最初、善良な娘が結婚したところから始まる。しかし、領主は結婚を認める事を引き換えにその夫にとんでもないものを要求して来て、彼女はその餌食になる。そういう歪んだ領主、時に残酷な民衆の仕打ちで彼女は追い詰められて行く。

欧州だけではなく色々な国や地域で花嫁の処女を領主や権力者が奪う…と言う風習があったと言う説も歴史上にはあるんだけど、それはWikipediaで読んでみて下さい。

ベラドンナに話しを戻すと、主人公のジャンヌは世間からの仕打ちで悲しい思いをすればするほど、彼女は悪魔との距離を縮めて行く。そして、彼女は悪魔に愛される事を受け入れる事になるが…。

しかし、悪魔に愛され、特殊な力を有するようになった後も彼女は完全な悪になどなれなくて、彼女は夫への一途な愛を捨てれないし、そして、村人の流行り病を直したり、そこに村人が集まるようになって自由(映画ではカジュアルセックスで表現されているようにも見えるけど)を謳歌し始める。それが領主の側から見たら、悪魔召喚のサバトに見えたり、民衆が悪魔に操られているように見えたり…。

サバトも魔女の話しとよく一緒に出て来る事もあって、それもWikipdeiaを参考にしてみて下さい。

このストーリーにある「悪魔」とは一体何を意味するのか? それは人々に考える余地を与えるもので、色々と考えさせられるものだったりする。
 

「哀しみのベラドンナ」の独特な世界を支える際立ったイラストとサントラ

この作品を"独特なもの"として支えて行くのは、もうアニメとか言うよりイラストと言った方が良い深井国氏のまるでスタイル画のような美しい絵。

絵の構図もクリムトミュシャを感じさせるものがあったり、絵をやっている人にとっても興味深いものに映ると思う。

そして、ドアーズとかの影響さえ感じさせる前衛的な独特な音楽。時に前衛的なジャズやプログレシブロックの影響を感じさせたり、その音楽はイラストの色彩と共に70年前後の独特なサイケデリックな世界を構築している。

それで、多分音楽を勉強しているなら、これは普通の人にはなかなか書けない音楽である事に気付くかもしれないし、自分もこの「哀しみのベラドンナ」を見ながら主題歌以外の前衛的な独特の音楽が気になって仕方なかった(特にハモンドオルガンの使い方に耳が行く)。

前のアニメラマの2作は、虫プロの音楽も多数手がけ、NHKの大河ドラマでも多数音楽を手掛けて来た日本におけるシンセの先駆者である富田勲先生が手掛けているけど、その音楽とは明らかに違う。(富田勲先生については、追悼記事をこのサイトにも書いているんで興味がある人は読んでみて下さい)

そしたら、「哀しみのベラドンナ」のサントラは日本のジャズ・ピアノの第一人者の一人である佐藤允彦さんだし、個人的には「おおー!!やっぱり!」と言う感じですごい納得した。(佐藤さんのジャズはかなり前衛的)

多分、ジャズ界の重鎮で日本で最初にバークリー音楽院(ボストン)に行って有名になった人は渡辺貞夫さんだと思うし、佐藤允彦さんもその2-3年後にバークリーに留学して、佐藤さんがバークリーに留学していた頃、アメリカではどんな音楽が流行っていたのか? このベラドンナのサントラにも影響を与えたかもしれないドアーズは、67年に「ハートに火をつけて」をビルボード1位にしている。

自分もこの時代は生まれるずっと前の事だからまだまだ勉強しなくてはいけない事ばかりだけども、佐藤允彦さんだから作り上げる事ができたベラドンナのサウンドトラックだと思う。

 

またこのベラドンナの劇中、すごいサイケな画像が次々飛び出して来る場面があるんだけども…

これはビートルズのイエローサブマリンに影響を受けている…と読んで超納得した。

ベラドンナのこういう部分も、美術とか音楽系に興味がある人にとっては、かなり刺激にもなる作品に思えている。
 

70年前後、世界ではフェミニズム運動が活発化

それで余談だけど、このベラドンナのサントラの一曲目の題名が「アンディ・ウォーホル」とかなっているのがすごく気になる。アンディ・ウォーホルはアメリカのポップ・アートの画家として世界中で知られているけど(我が家の玄関にも黒地に赤のデイジーと言うアンディ・ウォーホルの絵を飾っている!)、この曲名のアンディ・ウォーホルが何を意味するのか?

単に前衛的で芸術的と言う事を意味してるだけなのか? それとも…アンディ・ウォーホルは68年にラディカル・フェミニズム団体の「全男性抹殺団」とか言うところにマジで暗殺され掛かっていて(この団体が何を掲げていたかはTogetterの説明でどうぞ。恐ろしいw)、申し訳ないけど、なんかそれを思い出しちゃって仕方なかった。

女性からも見ても、こういう過激なフェミニズム団体の活動は迷惑みたいだけど、女性を迫害しようとする歴史がある一方で、男性を全て根絶させようとする団体が近代には生まれたり、恐ろしい話しだよね…w

この「哀しみのベラドンナ」は見ている内に段々とエロさえ忘れて行くような感じだったし、中世の女性が迫害された歴史、そして1970年前後から大きく動きだした世界的なフェミニズム運動を強調しているように思う。

国連もこの動きに合わせ72年に「75年を国際婦人年」と決めて色々なシンポジウムを開催した。ベラドンナが製作されのは73年で、その歴史を考えれば、このベラドンナは色々な事を問いかけて来る。実際、このアニメの最後にはフランス革命の話しまで出て来て、そこで女性が多く活躍した事や、世界的な名画でもあるルーヴル美術館所蔵のドラクロワの「民衆を導く女神」の絵がそれを締める。

wikipediaより

またベラドンナでは、日本でもウーマンリブ活動や差別問題に力を入れて、後に参院議員になる中山千夏さんもナレーターや主題曲の作詞で参加しているけど、中山さんが虫プロのアニメラマに参加するのは前作の「クレオパトラ」からで、そこではクレオパトラの声を演じていた。そして、この当時、中山さんは、ベラドンナの音楽を担当していた佐藤允彦さんと結婚していて、こういう事も何かこの作品に影響を与えているように思えたりもした。
 

「哀しみのベラドンナ」は個人的にはかなり面白かった

悪魔の声を仲代達矢氏がやっているとか、その他にも「哀しみのベラドンナ」は色々興味深い所があるけど、個人的には西洋史とか芸術関係が好きな人には薦めるし、エロだけが見たい人は、今のもっとすごいのに慣れているとそれほどでも無い気がする可能性もあるし、あまりそれに期待してはいけないアニメにも思ったりもした。

それより70年代初頭にこういうアニメが日本で作られていた事に少し驚いたし、海外でも他のアニメラマより多くの人がベラドンナの絵やストーリーに興味を持っているようにも見える。10年前位のニコ生の動画だけども、このベラドンナのトレイラーに日本の色々な人がコメントを入れている。(しかし、このニコ生の動画は3分以降でエンディングを全て流しているから、それを知りたくない人は観閲注意

このコメントを見ても、このアニメが見てみたいと言う人がかなり居る。

個人的には未だ考えさせられる部分があるけど(悪魔とは何だったのか…?とか)、エロいとか言う以上に音楽やイラストが非常に印象的で刺激的に思えたアニメ映画だった。

公開日 カテゴリー Art, Moovieタグ

About Makoto

TESシリーズ(Skyrim、ESO等)のファンサイトを運営。しかし、本性は音楽geek(soul,Funk& Jazz他)、中学2年の頃からプログレ・バンドで鍵盤系をやってました。Wordpressは2007年からの古参。 Home:  Rolling Sweet Roll

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