今日、スペインとモロッコの試合が再び昨日の日本-クロアチア戦同様にPK戦にもつれこんで、結果、驚く事に2010年のW杯優勝のスペインがモロッコにPK戦で破れる…と言う波乱がありました。波乱なんて言ったら勝ったモロッコに失礼になっちゃうけども、この大会のモロッコは現在FIFAランキング2位のベルギーさえ蹴落として決勝進出を決めていて、決して「ラッキー」だけが彼らの味方をしているわけでは無いのは多くの人が承知なんだけども。
それでも、スペインと言うのは誰もが認める強豪国で、スペインと同じ予選グループで戦わなくてはいけなかった日本のファンは、ワールドカップ前から散々「スペイン(W杯2010年優勝)とドイツ(W杯2014年優勝)」と言う国名に散々脅かされて来る事になった。だからこそ、その2国に勝ってグループ予選1位通過は日本が起こした奇跡みたいに言われて来たわけだし、そのスペインが、今度は36年ぶりにワールドカップに決勝進出を決めたモロッコに負けてしまったわけです。
この試合の直後の日本のTwitterのトレンドはこんな風になっているし。
この中で笑ったのは「PK1000」と言うもので、昨日、日本がPK戦でクロアチアに負けた時、Twitterのトレンドに「日本PK下手」と言うのがあって、その言葉を巡って激しい論争がTwitterで起きていた。「PKを下手とか言えるヤツはサッカーをわかっていない」とか「幾らなんでも下手とか言うのは失礼だ」と言う人々と、「日本のPK戦は全然PKの練習をしてなかった事を証明している」とか「厳しい評価も必要だ」と言う人々。
その時、「スペインなんてPKの練習を1000本もやって来ている」と言う話しが出て来て、実際、こういう記事があった。
ルイスエンリケ監督は前日会見で「1年以上前から複数の練習キャンプで選手らに、W杯に向けて宿題がある。所属クラブで最低1000本、PKを練習するようにと伝えてきた」とコメント。
さらに「PKは宝くじではない。繰り返し練習すれば、PKは上達する。プレッシャーと緊張のトレーニングはできないが、うまく対処できるようになる」と述べた。
自分はあまり覚えてないんだけど、スペインはPK戦を苦手にしていて、今日のPK戦でW杯のPK戦の負けが4回になってしまったらしい(PK戦最多敗北数・泣)。だから監督もその強化に力を入れたんだろうし、しかし強豪国がPK1000本練習しても、PK戦では負ける事がある事をスペインは証明してしまったようなもので、モロッコのキーパーのナイスセーブも当然讃えなくてはいけないんだけど、PKではこういう事もあるわけですよ。自分も昨日「PKは殆ど運ゲー」と書いた。
そしたら、昨日、日本のPK戦論争で「PKを下手とか言えるヤツはサッカーをわかっていない」と言っていた人たちがこのスペインのPK戦の大敗を見て鬼の首取ったみたいになって、「だから、PKは下手とか上手いとかそういう枠で語れないないものだ」とPK1000がトレンド入りを果たした流れ。(このトレンドには「PK1000と聞いてヤクルト1000を思い出す」と言うTweetも相当混じっていたんだけどもw)
個人的には精神的なプレッシャーとかマジで怖ぇ…と言う感じで、スペインのファンやメディアは予選で日本に負けた事さえ許せないような感じだったし、そこにはピリピリした空気があって、多分、スペインの選手には日本以上のプレッシャーがあったと予想する。まだブラジルにでも負けたというならファンも許すかもしれないけど、日本に負けただけではなく36年ぶりの決勝進出を果たしたモロッコにも負けたなら、ファンは一体何を言い出したりやらかすかさえ心配になる。
本当に怖い事は、こういう大舞台では、普段何て事のない事が出来なくなってしまう事で、どんな究極的な状況でも普段の能力を発揮出来るように練習と言うのはそれを補佐するし、スペインのPK1000の監督が言う事も実は全く正しい事に思う。
自分も当然ワールドカップのようなとんでもない大舞台に立った経験は無いけど、しかし、ピアノを通して大勢の前に立たなくてはいけない…とか、何かを審査されるとか、そういう程度の事は経験した事はある。小心者だから、これからピアノを弾かなくてはいけないと言うのに、その大衆や審査員を前にして手が氷のように冷たくなり、体中から血の気が引いて寒気がして来たり、こんな冷たい手の状態でどうやっていつもどおりのピアノを弾けって言うんだよ…とか、自分が置かれた立場が幸せとか言うより呪わしく思えて来たりね…。「お前はこの為に頑張って来たんだろう」とか何度も自分に言い聞かせて、前にやっと足を一歩踏み出せる…みたいな。
だから、ワールドカップとか、自分が経験した事の何十倍もの重圧が選手を押しつぶそうとする究極的な舞台でのプレッシャーを無視して「PKが下手」とか語る事は、ある意味でこういう究極的な心理を経験した事がない人達の特権でもあって、それを最もらしく語る事はあまりカッコいい事とは思えない。自分は甘ちゃんと言われても、人の痛みがわかる人間で居たいし、厳しくするのなんて自分一人に対してで十分だったりする。
クロアチアのペリシッチ選手
「彼ら(日本の選手)はよく戦ったが、落胆していた。試合の最後に彼らを慰め、手を差し伸べて励ますのは普通のことだ。 これはフットボールと人生の一部なんだ」
日本のファンの一部でさえ「PKが下手」とか言う話しに夢中になっている頃、クロアチアのペリシッチ選手は日本の選手に駆け寄って励ましてくれて、ファンとして、本当にありがとう。彼は長友選手の同僚だった事もあるらしいけど、この話しを読んだ時、クロアチアのペリシッチ選手の崇高な精神と優しさに手を合わせたくなったし、これこそ自分達がワールドカップから学ばなくてはいけない事だと思ったりもした。
きっと日本の選手も今日のスペインの選手もとんでもない重圧の中でPK戦…いや、全試合も戦っていたとも思うし、4年に一度のワールドカップは生涯たった数度の挑戦しか無いし、下手したら決勝だって行けない事も普通にあるし(強豪イタリアが今回出てないとか)、だから自分はPK戦を余計に運ゲーと言いたくなる。
英語圏ではこういう彼らに「Good Luck」と言うけど、前にも少し書いたけど、Good Luckと言う言葉は、「君たちはもう出来る事がない位ここまで頑張って来た。だから、あとは運だけがそれを決める」と言う意味で、相手の今までの努力を認め、もし失敗としても「それは運が悪かっただけ」と言う相手のせいにしない思いやりも含んだ言葉だったりする。
PKと言うのは、正しくこの言葉の通りのものだと思っているし、だから、一方で「メンタルの強さ」と言う言葉もスポーツや競技では尊重される。
しかし、最後に一つだけ。グループEは日本もスペインも最後PK戦で泣いたけど、昨日のW杯のPK戦のデータにも書いた通り、PK戦で最多勝利(4勝)・勝率100%の記録を持っているのはドイツで、もしEグループでドイツが決勝に出ていたらどうなっていたのか? とか言う想像が頭から離れない。こういう皮肉なような事が起こるのもワールドカップと言うもので、この先、自分達は今年のワールドカップで何を見る事になるのか?
ブラジルと今日の2試合目のポルトガルの次元が違うような強さが強烈に印象的で、同時に世界のサッカー人気を支えて来たアルゼンチンのメッシやポルトガルのC.ロナウドにとっては最後のワールドカップになるかもしれないし、ネイマールはまだ30歳だから次があるのかな…。しかし、他にも多くの名選手の最後のワールドカップにもなる筈で、そういう部分で感慨深いものがある。
しかし、ピアノや音楽と違ってマジでスポーツ選手の最盛期は本当に短い。その限られた時間の中で成績を残し、ファンの記憶に名を残すと言うのは、偉大な試合を彼らが続けて来た証だったりする。そういう彼らをワールドカップで見れることはファンにとっては本当に幸せな事だったりする。